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2024.09.17

ライトノベル22

 社労士の北山は、ある企業で令和6年10月からの社会保険適用拡大について、従業員を対象に話をした。
 51人以上の労働者を雇用している事業所なので、10月から

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
  • 2か月を超える雇用の見込みがあること
  • 学生ではないこと

 の全ての条件に当てはまる場合は新たに社会保険の加入対象者となる。
 事前の企業との打ち合わせによると、週20時間以上働いている方はそのまま加入し続けるか、労働時間を減らすかの選択を迫られているのである。
 対象者になる可能性のある方で、ご自身が社会保険に加入すると今までと何が変わるのか?社会保険に加入した方がいいのかよくわからないという方もいるという事であった。

 いよいよ当日、北山は簡単に社会保険制度の説明から始める事にした。
 「まず、社会保険に加入すると、健康保険と厚生年金に加入する事になります。保険料の半分は会社が負担する事になります。保険料の半分はご自身の給与から天引きされます。」
 「現在、ご自身で健康保険に加入していない方は、ご家族の扶養か、ご自身で自治体の国民健康保険に加入していると思います。ご家族の扶養の方の場合は、社会保険に加入すると金銭的な負担は増えますが、ご自身で社会保険に加入すると、ご自身が病気で休職した場合、傷病手当金の対象となります。また、産前・産後に健康保険から支給される出産手当金の対象になります。」
 「現在、厚生年金に加入していない方は、配偶者の扶養(第3号被保険者)か国民年金保険料をご自身で支払っていると思います。第3号被保険者の方が厚生年金に加入すると、やはり金銭的な負担は増えますが、将来受給できる老齢年金額が増えます。また、障害年金を請求する時に、厚生年金加入中が初診日なら障害厚生年金での請求となるので、第3号被保険者や国民年金加入に方より有利になります。」と北山は一通り制度の説明をした。

 「現在、第3号被保険者の方以外は、社会保険に加入することにより、今までより、保険料の負担が減るので社会保険に加入するデメリットはありません。是非、社会保険に加入しましょう。」
 「一方、第3号被保険者であって、ご自身で国民年金・国民健康保険に加入していない方は、新たに社会保険に加入する事によって新たに保険料の負担は増えます。しかし、先程、記載したように、将来、様々な点で給付が増える可能性もあります。また、第3号被保険者は、あくまで配偶者が社会保険に加入している場合のみ対象となります。現在は第3号被保険者の対象となっていても、不幸にして配偶者と離婚や死別があった場合は、第3号被保険者ではなくなります。ご自身で国民年金と国民健康保険に加入する事になります。配偶者が自営やフリーランスになった場合も第3号被保険者ではなくなり、ご自身の国民年金と国民建国保険料を支払う必要があります。このような場合は社会保険に加入していた方がよいという事になります。」
 「また、第3号の範囲で働く事を選択しても、将来、再度の法改正や、最低賃金の上昇等で、社会保険に加入せずに働き続けるのは厳しくなる可能性もあります。」
と北山は、社会保険に加入するメリットと、デメリットについて一通り説明した。

 「どれくらい手取りが減るのでしょうか?」と従業員から質問をうけたので、北山は、保険料率表の見方を説明した。「保険料率が毎年改定されるので給与額が変わらなくても、保険料は変わります。」と北山は強調した。
 「後20年後、年金はもらえるのでしょうか?自分は、払い損になると思うので支払いたくありません。」という従業員もいた。
 「そうですね。そもそも、払い損になるかどうかは、老齢年金の場合は、何歳まで生きられるかによって決まります。こればかりは分かりませんね。仮に70歳以下で亡くなれば、払い損になりますね。まあ、現在の見通しでは、平均寿命まで生きれば確実に元をとるようになっています。後、年金は納められた保険料だけでなく、国庫からも年金財源が補填されています。また、社会保険の場合、保険料の半分を企業が負担しています。老齢年金だけではなく障害年金・遺族年金という制度もあります。そういう点でも補償は手厚いと思います。」と北山は説明した。

 「なるほど。何歳まで生きるか?うーん。なんとなくわかりました。そんなに長生きしたくないけど、自分では決められませんからね。」と従業員はいった。
 「なお、将来、老齢年金として支給される年金額はどれくらいになるのかという点に関しましては、ねんきんネットという日本年金機構のホームページにあるサイトにご自身の情報を登録してシミュレーションするか、直接、年金事務所に相談にいく等で確認できます。年金定期便等も送られてきたら、確認しましょう。」と北山は説明した。

 「年金定期便、主人に来たのをみたけど意外に少なかった。老後は生活できるのかしら?」とある従業員がつぶやく。
 「そうですね。公的年金のメリットの話をしてきましたが、中々年金だけで生活するのは皆さん厳しいですね。」と北山は答える。一同苦笑いする。
 「そろそろ終了の時刻ですが、他に質問はありませんか?」と企業の担当者がいい、特に質問がなかったので、北山の話は終了した。中々、限られた時間で年金制度について理解してもらうのは難しいと北山は感じた。


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