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2023.12.25

ライトノベル15

 社労士の木下に知り合いの税理士から、某アパレル店の経営者からの相談にのってほしいと依頼があった。退職した従業員が内容証明郵便で「私は平成15年2月1日から令和5年3月31日まで、20年以上勤務いたしましたので、御社の退職金規定により600万円の退職金のお支払いをお願いします。」と請求してきた。


 しかし社長としては、そんな大金を支払えないし、根拠も分からないという事であった。

 後日、木下の事務所で面談する事になった。「ブティック川崎の川崎と申します。本日はよろしくお願いします。」

 「社労士の木下といいます。田島税理士から概要は伺いました。まず、その内容証明を拝見させて頂いてよろしいでしょうか。」

 「ええ。持ってきました。こんなものが急に送られてきて、私どうしたらいいのでしょうか?」と送られてきた内容証明郵便を木下に渡した。

 「退職された江島さんは20年勤務されていたのですか?」と木下は内容証明郵便を見ながら質問する。

 「ええ。よくやってくれていたので、報いたい気持ちはありますが、しかし、実際問題30年前のバブルの時ならまだしも現在ではそんなに高額が退職金はだせません。」

 「ここに記載されている御社の退職金規定は現在どう規定されていますか?」

 「それが・・・実は退職金は20年程前に退職した従業員に支払ったきりでした。その後退職する従業員は殆どいませんでした。ですので、退職金規定の事は今まで忘れていました。今回大慌てで、探してみたら、就業規則と一緒に古い退職金規定がでてきました。」

 「読んでみたら、会社を立ち上げた30年ほど前に規定したままになっていました。それをみると、確かに20年勤務したら600万となっていました。これももってきました。」といいながら、川崎は就業規則と退職金規定もさしだした。木下は渡された退職金規定をみながら考えていた。

 「確かにこの退職金規定によると600万支払う事になりますね。この退職金規定は新しく改定された記憶はないですか?そもそも、就業規則や退職金規定はどうやって作成されたのですか?」としばらくして木下が聞いた。

 「30年程前独立してお店を開店する時、元勤務先の就業規則を借りて作りました。ほぼそれを丸写しさせてもらい作成しました。その後、細かな規定等は、先程もお話した通り、退職者が殆どいなかったもので、見直した事はありません。」

 「そうですか。いわれるように、変更していないのなら、この退職金規定は原則有効とみなされます。現実的には、退職された江島さんに事情を説明して、退職金の減額をうけいれてもらうしかないですね。」と厳しい見通しを木下は告げる。

 「そうですか・・・自分の会社は従業員がほぼ辞めず、特に従業員から不満やトラブルを聞いた事がなかったので、長年、無関心でいたのがいけなかったのでしょうか?」とやや諦め顔で川崎はいう。

 「就業規則や規定は従業員との契約でもあるので、お互いに規定を順守しないといけないのです。また、会社の実態や法律に合わなくなった場合はその都度従業員に説明して改正していかないといけないのです。今後いろいろ見直していく必要はあると思いますが、まずは江島さんに丁寧に説明しましょう。」と木下は説明した。

川崎が帰った後、横で話を聞いていた後輩の中村が「どうなるのでしょうか?」といった。

 「うーん。江島さんが、そんなに高額は支払えないという事情を理解してくれれば何とかなると思うけど。内容証明で記載してきた金額はダメ元のつもりで請求した可能性もあるしね。」と木下は答えた。

 

 後日、木下の立ち合いのもと社長の川崎と江島が話し合いした。

 「わざわざお時間を取らせてごめんなさいね。江島さんは本当によくしてくれたので、できれば、それに報いて退職金600万支払いたいけど、今会社の経営状況もよくなく、退職金は300万で納得してもらえないでしょうか?」と率直に川崎はきりだした。

 「社長、私は正直金額に関してはこだわりません。会社の経営が昔とは違うという事も理解しています。ただ、有給もとる事なくずーと働いてきたので、なにもないのはおかしいなと思ったのです。」江島は続ける。「代わりの人員がいないので、私達、インフルエンザとか忌引きとか本当に仕事に行けない時しか休みませんでした。昭和の時代は皆それが普通だと思っていました。

 でも、最近はインターネットで詳しく調べられますから、娘に調べてもらったら、法的に有給はとるべきだし、何につかってもいいというのです。退職金も規定があれば支払われるべきだというのです。いわれてみるとそうだなあと思うようになり、退職金を請求する事にしたのです。」

 「あなたのおっしゃる通りです。本来なら退職金についてはあなたに請求される前にこちらから説明すべき事でした。その点は申し訳ないと思います。」と川崎はいった。

話し合いが終わり、江島が帰った後、川崎と木下はしばらく今後の事について話した。 

 「何とか江島さんに納得してもらってよかったです。今後のためにも先生、就業規則の見直し等をよろしくお願いいたします。ところで、有給は与えないといけないものなのでしょうか?」と川崎は聞いた。

 「そうですね。最近では従業員が請求しなければ有給を与えないでいいとはいかず、要件を満たした労働者には年5日は有給を与えないといけません。規定の見直しは月に1回程度面談を重ねながらやっていきましょう。」と木下はこたえた。


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