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お知らせ

2025.07.14

ライトノベル

社労士の中山が、水曜日の夕方、仕事を終えて、そろそろ帰宅しようとしていた所、「こんな時間に急にすいません。先生。先月、退職した従業員の木崎から、突然、内容証明郵便が届きました。詳しい意味は分かりませんが、パワハラを放置していたので、会社に慰謝料を請求するというような事が記載されています。どうしたらいいのでしょうか?パワハラがあったなんて、社長の自分はまったく、聞いていませんでした。」と顧問先の社長の桜山から電話があった。桜山の会社は、従業員が50人程度の食品卸売の会社である。
「えーと。社長は、本人や、周りの人からパワハラの訴えを聞いた事がなかったのですか?」と中山も少し驚いた。中山の記憶では、桜山の会社では、昨年、ハラスメント対策として、相談窓口は総務部長が担当する事になり、中山の事務所が従業員を対象にハラスメント研修も実施した。
「ええ、まったくありません。先程、総務部長に確認しましたが、聞いていないとの事でした。自分が目撃した事もありません。彼が退職する時も、自分から辞めるといったので、特に理由は聞きませんでした。」と桜山はいう。
「そうですか。兎に角、明日午前中伺います。」と中山はいいながら、おそらく、パワハラの相談を社内の誰かにはしたが、あまりとりあってもらえなかったという事ではないだろうか?と思った。
「急な話ですいません。先生よろしくお願いします。」
 
次の日、中山は桜山の会社にいった。「先生。あの実は・・・今朝、従業員にいろいろ聞いてみた所、木崎は、部長の崎山から、きつく叱責された事が何度かあり、それをパワハラではないのかと、課長の山崎に相談したことがあったそうです。しかし、山崎は、「部長は君に期待しているからいうのだと思う。そんなに気にするな」と励ましたのみだったそうです。おそらく、木崎も山崎からそんな風にいわれたので、誰にも相談せずに会社を辞めたのではないかという話でした。自分も初めて聞いて驚いています。それが、こんな大事になるなんて。」と桜山はいう。
「そうでしたか。パワハラがあったかどうかは別として、木崎さんが相談していた時に、きちんと話を聞く必要がありましたね。」と中山はいい、送られてきた内容証明を見せてもらった。 
内容証明には下記にように記載されていた
 
 
2025年5月11日
 
私は、今年の3月まで、貴社で働いていました。昨年の5月頃、貴社会議室にて崎山部長より、「取引先から頼りないとクレームがきた。」といった趣旨の注意を受けました。何かミスがあったかな?と思い、私が、具体的なクレームの内容とその改善策を尋ねたものの、部長からは明確な回答はなく、「お前は頼りない。仕事ができない。今のままではダメだ。」と強い口調で叱責されました。 私は、取引先には、きちんと誠意をもって対応しているつもりですが、どの取引先からもそんな風に思われているのかと疑心暗鬼になり辛くなりました。
 さらうに、7月頃に、また、崎山部長に会議室に呼び出され、「なぜ、あの契約が取れなかったのか?」ときつく言われました。私が「しかし、あの契約は、先方と何度も交渉しましたが、こちらとしても、これ以上、条件を落とす事ができない以上、どうしたらよかったのでしょうか?」と部長に尋ねると「おまえの押しが弱いから上手くいかないのだ。言い訳をするな。社会人失格だ」と一方的に叱責されました。
 その後も、崎山部長から、何かある度に「お前は表情が暗い。」「なんだ、その清潔感のない恰好は?そんなんだから、上手くいかないんだ。」と人格を否定されるような言葉もうけました。
 そのように、部長から叱責されるものの、何をどう気を付けていったら、いいかわからない状況が続きました。徐々に仕事に集中できなくなり、夜も眠れなくなりました。これは、部長によるパワハラではないかと思うようになり、私は思い切って、今までの部長の私に対する叱責を山崎課長に相談しましたが、「そんなに気にするな。部長は仕事に厳しい人だから。」といわれたのみで、まったく、取り合ってもらえませんでした。
以上のような、貴社部長の私に対するパワハラ、及び課長による私の相談を無視するような行為によって生じた精神的苦痛は計り知れません。貴社は、雇用する社員の生命、身体の健康と安全に配慮すべき安全配慮義務を負っていますが、部長の上記行為を放置した行為は、明らかに義務違反に該当するものです。また、部長の上記行為は、事業の執行について行われた行為であることから、貴社には不法行為の使用者責任(民法715条)が生じます。
私は、貴社の部長の叱責と、課長による、私の相談無視の結果、不眠症の症状が続きました。なんとか出勤しても、以前と比べて、明らかに仕事に集中する事ができなくなりました。そのような状況が続き、退職をせざるを得なくなりました。メンタルクリニックを受診したところ、適応障害であると診断され、現在も体調不良が続いています。
私は多大なる精神的苦痛を受け、退職を余儀なくされました。このようなパワハラ行為について、私は貴社に対して慰謝料100万円を請求します。お支払い頂ける場合には、本書面到達後1週間以内に、私の給与口座宛にお支払いください。なお、上記慰謝料をお支払い頂けず、誠意ある対応をしていただけない場合には、訴訟により、上記慰謝料額に加えて遅延損害金や要した弁護士費用を含めて請求を行うことを予めお伝えします。
 

以上

 
 「彼は、本気で訴訟まで考えているのでしょうか?慰謝料100万なんて払えませんよ。」と社長の桜山は、憮然としてぼやいた。
 「兎に角、まずは木崎さんと話あう事が必要ですね。知り合いの弁護士さんも紹介します。木崎さんは、弁護士さんに相談していると思われます。訴訟になる前に解決しましょう。」と中山は答えた。内心、流石に100万の慰謝料は高額過ぎるのではと中山は思った。パワハラの判例等をみると、パワハラを受けた方の立場からみると厳しい面があるのが現状である。
結局、双方が弁護士を交えて交渉する事になり、会社が木崎氏に50万円の慰謝料を支払う事で合意した。
 「なぜ、総務部長に相談しなかったのかを木山に聞いたところ、相談しても課長にいわれたような事を言われるだけだと思った。また、信頼していないからとの答えでした。従業員はこちらが思っている事とは違う風に感じているんですね。今後同じような事にならないようにどうしたらいいのでしょうか?」と後日、桜山は中山に話した。
 「そうですね。今回のように、損害賠償を主張してくるとまではいかなくても、相談しても、きちん聞いてもらえなかったという思いを従業員がしたら、社長が知らない間に、特定の人が原因で退職する従業員が実は何人もいるという事態になりえますね。それは、会社やそこで働く人双方にとって、非常に問題ですね。ハラスメント対策や研修も、繰り返し、もっとみんなに伝わるように考えていかないといけないですね。」と中山は答えた。


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